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福岡地方裁判所小倉支部 平成元年(ワ)612号 判決 1996年3月26日

原告

北本盡吾

原告

日高治男

右両名訴訟代理人弁護士

石井将

服部弘昭

谷川宮太郎

市川俊司

被告

新日本製鐵株式会社

右代表者代表取締役

齋藤裕

右訴訟代理人弁護士

畑尾黎磨

瀧川誠男

山崎辰雄

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告らに対して平成元年四月一五日付けでなした「八幡製鉄所労働部労働人事室労働人事掛勤務を命ずる。社外勤務休職を命ずる(日鐵運輸株式会社〔以下「日鐵運輸」という。〕へ出向)」との職務命令(以下「本件出向命令」という。)はいずれも無効であることを確認する。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  当事者

(一) 原告ら

(1) 原告北本蓋吾(以下「原告北本」という。)

原告北本は、昭和三六年六月五日、臨時作業員として旧八幡製鐵株式会社に雇用され、その後二か月を経て同年八月五日付けで同社の社員として採用され、八幡製鉄所運輸部第二輸送課高見輸送掛に配属となり、さらに、同部製品輸送課製鋼分塊輸送掛、生産業務部八幡輸送課半製品輸送掛、同部輸送室八幡輸送掛、同部輸送管理室八幡輸送掛を経て、平成元年三月一日以降、本件出向命令が発令されるまで同部輸送管理室輸送掛の職務に従事してきた者である。

(2) 原告日高治男(以下「原告日高」という。)

原告日高は、昭和三六年九月一五日、臨時作業員として旧八幡製鐵株式会社に雇用され、その後二か月を経て同年一一月一五日付けで同社の社員として採用され、八幡製鉄所運輸部輸送課信号掛に配属となり、さらに生産業務部輸送室八幡輸送掛、同部輸送管理室八幡輸送掛を経て、平成元年三月一日以降、本件出向命令が発令されるまで同部輸送管理室輸送掛の職務に従事してきた者である。

(3) なお、原告らは、新日本製鐵八幡労働組合(以下「八幡労組」という。)に所属する組合員であるが、八幡労組は、その本部を北九州市に置き、平成元年四月一日現在で、組合員数一万二二三二名を擁し、下部組織として五三の支部を有しているが、上部組織である新日本製鐵労働組合連合会(以下「連合会」という。)は、被告の本社、製鉄所、製造所の各組合及び新日鐵化学株式会社の組合を単位組合とする連合体である。

(二) 被告

被告は、昭和四五年三月三一日、旧八幡製鐵株式会社と旧富士製鐵株式会社との合併により設立され、従来は鉄鋼の製造・販売を主たる事業としていたが、事業領域を拡大し、現在では右のほか、非鉄金属、セラミックス及び化学製品の製造・販売、製鉄プラント、化学プラント等の産業機械・装置及び鋼構造物の製造・販売、建設工事の請負、都市開発事業及び宅地建物の取引・貸借、情報処理・通信システム及び電子機器の製造・販売並びに通信事業、バイオテクノロジーによる農水産物等の生産・販売、教育・医療・スポーツ施設等の経営、以上に係わる技術の販売及び付帯する事業等を目的とする株式会社である。

平成元年四月一日現在で、被告に在籍する従業員の数は、出向者一万三三九三名を含み(ママ)五万八三四九名であり、資本金は三三一八億三五〇〇万円である。

2  出向に関する被告の規定

就業規則に「社員に対しては、業務上の必要により社外勤務させることがある。」(五四条)との規定があるほか、八幡労組の組合員に適用される労働協約においても「会社は、業務上の必要により、組合員を社外勤務させることがある。」(五四条)との規定がある。

また、被告と連合会が締結した労働組合法上の労働協約である社外勤務に関する協定(<証拠略>。以下「社外勤務協定」という。)には、以下の諸規定がある。

(一) 社外勤務を分けて、出向及び派遣とし(二条一項)、出向とは、関係会社、関係団体、関係官庁等に役員または従業員として勤務することをいう(同条二項)。

(二) 出向する組合員は社外勤務休職とする(三条)。

(三) 出向期間は原則として三年以内とする。ただし、業務上の必要によりこの期間を延長し、またはこの期間を超えて出向を命ずることがある(四条一項)。出向期間は当社勤続年数に通算する(同条二項)。

(四) 出向者の就業時間、休日、休暇等就業に関しては出向先の規定による(六条)。

(五) 当社における考課、昇格、昇給及び賞与等の査定については、出向先における勤務成績を勘案の上、当社規定により社内勤務者と同一基準により行う(七条)。

(六) 出向者の懲戒については、出向先の規定による。この場合の当社の取扱いについては、その都度定める。ただし、出向先の規定または当社の規定により解雇に該当する場合は復職を命じた後、当社の規定を適用する(九条)。

出向者の転勤、職場もしくは職務の変更及び出張は出向先の命ずるところによる(一〇条)。

出向者が出向先の規定により休職に該当する場合は、出向先の定めるところによる。この場合の当社の取扱いについては、その都度定める(一一条一項)。

出向者が当社の社員在職年齢満限に達したときは当社を退職するものとする(一三条)。

(七) 出向手当A(一時金五万円)の支給(一四条)。

(八) 出向者の給与及び賞与は出向先の定めるところによる。ただし、出向先支給額が当社規定による支給額に満たないときは当社の規定による支給額との差額を支給する(一五条)。

(九) 右当社規定による支給額は、基準内給与及び出向手当B(出向先の年間所定労働時間が当社年間所定労働時間を超える場合に右時間差に応じて支給。)とし、出向先における所定就業時間外の就業または休日の就業に対する過勤務手当及び深夜手当を一定の算式に従い支給するほか、その他諸手当は当社規定による(一六条)。

(一〇) 賞与支給額は出向先における勤務に基づき当社基準により計算する(一七条)。退職手当は出向期間を通算し当社規定により支給する(一八条)。

(一一) 出向者は当社保有の病院等の厚生施設及び出張時の宿泊施設を利用でき、出向先の社宅が利用できない場合に限り当社の社宅を利用できる(一九条)。

出向者は、当社の貸付制度、財形制度を利用できる。ただし、出向先に当社制度に準ずる貸付制度があり、これを利用できる場合はこの限りでない(二一条)。

(一二) 出向者の健康保険、厚生年金保険及び雇用保険は原則として当社において加入し、労災保険は出向先において加入する。出向者の業務上及び業務外の災害補償は出向先の規定による。ただし、出向先に定めがない場合、または出向先の定める補償額が当社社員災害補償規程に定める補償額に満たないときは、その差額を支給する(二三ないし二五条)。

(一三) 出向者が復職する場合は、その能力、経験等を勘案して配置職務を決定する(二六条)。

3  本件出向命令の発令

原告らに対し、平成元年四月一〇日、八幡製鉄所生産業務部輸送管理室長が同年四月一五日付けで出向を命じる旨予告し、同月一四日、八幡製鉄所労働部労働人事室長が同月一五日付けの日鐵運輸への出向の通知文を交付し、原告らは、同月一七日、出向に不同意のまま日鐵運輸へ赴任した。

なお、本件出向の期間は、本件出向命令後、三年ごとに(平成四年四月一五日と平成七年四月一五日)、「業務上の必要性がある」(社外勤務協定四条一項但書)として、業務命令により二回延長された。

二  本件の争点

1  本件出向命令の根拠

社外勤務に関する就業規則及び労働協約等の規定は本件出向命令の根拠となり、原告らは出向に応じる義務があるか。それとも、本件出向命令は原告らの個別具体的な同意を必要とするか。

2  本件出向命令は権利の濫用として無効か。

被告が八幡労組に昭和六三年一二月二〇日に提案した「輸送・出荷部門の体質強化を目的とした構内輸送体制の再構築計画」(通称P五五〇計画。以下「本件計画」という。)及び日鐵運輸に対する後記本件業務委託が必要なもので、本件出向命令に必要性があるか。

本件出向は、原告らに不当な不利益を与えるものか。

3  本件出向命令は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)三二条二項の脱法行為として無効か。

三  原告らの主張の要旨

1  出向に対する個別・具体的な同意の必要性

(一) 民法六二五条一項

労働契約に基づく労務提供等の権利義務には一身専属性があり、民法六二五条一項は「使用者ハ労務者ノ承諾アルニ非サレハ其権利ヲ第三者ニ譲渡スルコトヲ得ス」と定め、出向命令に労働者の同意を必要とするが、労働者の個別の同意を要するとしたのは、出向に伴う不利益から労働者を保護するためであるから、右規定は強行規定と解すべきである。

被告は、八幡製鉄所構内鉄道輸送作業及びその関連作業を平成元年三月一日付けで日鐵運輸へ一括して業務委託した(以下「本件業務委託」という。)が、これにより被告が得た税務や人事管理等の利益は、原告ら労働者の利益とはならず、労務指揮権の主体が変動すること自体が大きな不利益である上、原告らは、後記のとおり、労働時間や賃金等の面でも大きな不利益を受けているから、民法の右規定を厳格に解して、本件出向については原告ら労働者の同意が必要であり、原告らの同意のない本件出向命令は無効というべきである。

(二) 本件出向は復帰を予定しない永久出向である。

本件出向においては、出向に際して出向期間の明示はなく、原告らの原職場は、日鐵運輸に業務委託されているので、原告らに戻るべき職場はない。また、日鐵運輸には、業務委託された作業に従事する従業員を独自に養成する意図はなく、被告も原告らの復帰計画を今日まで示していない。

したがって、本件出向は、出向期間を三年とする社外勤務協定を逸脱し、復帰を予定しない出向(永久出向)であり、権利の濫用にあたるとして無効とするか、あるいは、いわゆる転籍と同質であるとして労働者本人の同意を必要とすべきである。

(三) 三者間法律関係論

出向においては、出向元との間に存在する労働契約上の権利義務が部分的に出向先に移転し、その限りで、労働者の権利義務が出向元のみならず出向先との間でも複合的に成立するから、出向先も出向労働関係の当事者にほかならない。すなわち、在籍出向は指揮命令権の移転にとどまらず、それまでの労働者と出向元の二者関係を、出向先を含めた三者関係に変更させるから、出向労働関係の発生原因を被告の指揮命令権に求めることは適切でなく、原告らと出向元である被告のみならず出向先である日鐵運輸との三者の合意が必要と解すべきであるが、本件においてそのような合意は存在しない。

また、原告らと日鐵運輸との間で労働契約関係が成立するためには、日鐵運輸の採用の意思表示のみでは足りず、原告らの日鐵運輸に対する入社の意思表示が必要であるが、原告らの入社の意思表示はない。

(四) 免責的債務引受の法理

(1) 休日及び休暇について

社外勤務協定は、休日及び休暇について、出向先の定めによるとしている(六条一項)が、それらは原告らの権利に属するものであるから、免責的債務引受の理論に従う限り、原告らの個別の同意なしには、被告はこれらを付与する義務を日鐵運輸に移転させることはできない。

また、休日日数については、本件出向後、被告の方が日鐵運輸より二日増えているが、これは被告の債務を二日分免責する免責的債務引受であるから、原告らの個別の同意が必要である。

さらに、休日及び休暇の権利は原告ら個人に帰属するから、出向先である日鐵運輸と原告らとの合意があって始めて、これらの付与方法を合理的に変更できるというべきであって、被告の就業規則ないし労働協約の規定を根拠に原告らから右権利を奪うことはできない。

(2) 年次有給休暇について

社外勤務協定は、年次有給休暇について、出向年度における残日数のうち、出向先の規定による引き継ぎ可能な日数の範囲で、出向先に引き継ぐとしている(六条二項)が、年次有給休暇を出向先の日鐵運輸に移転させ、引き継ぎ可能な最高日数に免責するためには、免責的債務引受の理論に従う限り、原告らの個別の同意が必要である。

また、休日及び休暇の場合と同様、原告ら個人に帰属する右権利を、被告の就業規則ないし労働協約によって奪うことはできない。

(3) 給与及び賞与について

社外勤務協定は、出向者の給与及び賞与については、原則として出向先の定めによるが、出向先の支給額が被告の規定による支給額に満たないときは差額を支給するとしている(一五条一項)。仮に、日鐵運輸が同社の給与体系による賃金分を負担しているとすれば、その限りで給与及び賞与の支払義務が出向先に移転されたことになるが、それが認められるためには、免責的債務引受の理論に従う限り、原告らの個別の同意が必要である。

また、賃金支払義務は使用者(出向元)の基本的義務であるから、被告の就業規則ないし労働協約により免責措置はとり得ない。

2  本件出向命令の根拠について

(一) そもそも、就業規則及び労働協約は出向命令の根拠とはならない。

本件出向命令当時の就業規則は、「社員に対しては、業務上の必要により社外勤務をさせることがある。」(五四条)と規定するだけで、出向先、出向中の労働条件等にも一切触れておらず、出向の諸条件が制度として明確に定められていないから、このような一般的、抽象的規定は、「出向があり得る」という訓示的効果を有するにとどまり、労働者出向を命じうる実質を備えているとはいえない。また、右規定に規範的効力を認めることは、強行法規である民法六二五条一項に反し、許されない。

仮に、使用者が、本件のような就業規則の出向規定を利用できるとすれば、会社は、関連会社に一部門を業務委託して労働者を出向させ、個々の労働者の労働条件を個別に不利益変更できることになるが、使用者の裁量的判断による人選を媒介にして、同一の勤務先に雇用され同一職場に勤務する労働者を、異なる労働条件の下で勤務させることは、就業規則の機能である労働条件の統一的・画一的処理に反する。

本件出向命令当時の労働協約にも、右就業規則と同様の規定がある(五四条)が、組合員全員を出向対象者としているわけではなく、出向対象者の選定を被告に包括的に委ねているから、通常の「労働条件基準」と考えることはできず、仮にこれを認めると、右就業規則の場合と同様、強行法規である民法六二五条一項に反する上、個々の労働者の労働条件を個別に不利益変更することを可能にし、労働協約の集団的・画一的機能を没却する。そもそも、労働組合には、出向の意思のある労働者の労働条件を改善ないし規律する能力があるにとどまり、それを超えて出向の意思のない労働者にまで出向義務を強制ないし創設する能力はない。

さらに、就業規則ないし労働協約は、当該事業場の労働規律と労働条件を定めるもので、出向先のそれらを制約するものではないから、権利義務の帰属先の変更は出向元会社の就業規則ないし労働協約ではなし得ないというべきである。法人格を別にする以上、出向先での労働契約関係の発生を、出向元における労働条件の一つと解するのは誤りである。

(二) 原告ら入社時、労働契約の内容に出向は含まれていなかった。

(1) 就業規則

昭和三六年一〇月六日当時の社員就業規則には、「社員に対しては、業務上の必要によって出張または社外勤務をさせることがある。」(五〇条)、「社員(作業職社員を除く。)が前条により社外勤務を命ぜられた場合には、休職とすることがある。」(五〇条の二)との規定があったが、当時、「社外勤務」には、被告との労働契約関係を「現在の所属のまま」とするいわゆる派遣型と、被告との労働契約関係を休職として「先方の社員とする」いわゆる出向型との二つがあるとされていたから、原告ら作業職社員は出向型の社外勤務から規定上除外されていた。

したがって、例えば、昭和三六年のブラジルのウジミナス製鉄所派遣のように、就業規則の規定に反して作業職社員にかかわらず休職を伴う出向型の社外勤務である場合は、団体交渉を通じて特別の協定を結んで処理されており、作業職社員を社外勤務の対象から除外する運用がなされていた。

また、原告らは、入社時、被告から、社外勤務は作業職社員には関係ないと説明されており、原告らが採用された二年後の昭和三八年当時においても、社外勤務や出向の制度について労使間で全く議論されておらず、社外勤務として予定されていたのは、一時的な必要に基づく出張に類するようなものであった。

(2) 労働協約

原告ら入社当時の労働協約、昭和三九年、昭和四一年の労働協約のいずれにも、出向等の社外勤務に関する条項はない。これは、この当時まで、前記ウジミナス製鉄所派遣のような特別の場合を除き、原告ら作業職社員を社外勤務から除外する運用がなされていたので、一般的に「社外勤務」を労働協約に取り込む必要がなかったからである。

(3) 誓約書及び身元引受書

なお、原告らは、入社時に、被告に右就業規則を遵守する旨の誓約書を提出しているが、労働契約締結時の労働契約の内容となる就業規則に従うことを約束しているのであって、将来、被告によって一方的に不利益に変更される就業規則に従うことまで約束したものではない。

(三) 就業規則五四条についての運用被告においては、労働者を出向させる場合は、出向対象者の個別具体的な同意を得るという、就業規則第五四条についての解釈ないし運用が、労使間で確立し定着していた。

3  権利の濫用

(一) 本件出向命令に必要性はない。

(1) 本件出向の真の目的

被告を含めた鉄鋼大手五社は、平成元年三月期決算で、約四九〇〇億円という史上最高の経常利益を記録し、景気拡大による鉄鋼需要の増大、輸出価格の好転などで大幅な増収増益を達成し、価格競争力の点でも復活しつつあった。被告も、申告所得が九七五億八四〇〇万円あり、対前年度比一五三・八パーセントの増益を達成していた。

このように、鉄鋼業界は、好景気のために深刻な人手不足に陥り、休・廃止した高炉を再稼働させるなどする一方で、先制的な人員削減を強行したために、社会的な非難をあびたが、被告も、史上最高の経常利益をあげている最中である昭和六三年一二月二〇日、本件出向の前提である本件計画を提案した。

(2) 本件業務委託の必要性及び合理性

<1> 本件計画は、右業務委託及び本件出向の必要性を裏付けるものではない。

被告は、本件計画において、<1>輸送技術の革新等最適な輸送手段の選択により、従来の鉄道輸送と無軌道輸送の範囲を見直し、輸送効率を向上させる、<2>「鉄道運行管理オンラインシステム」を開発・導入して鉄道部門の抜本的な効率化を図る、<3><1><2>によって生じる余剰員の解消のため構内輸送業務を統合再編するという三点をあげるが、いずれも本件業務委託及び本件出向の必要性ないし合理性の根拠としては不十分ないし不適当である。

すなわち、<1>については、そもそも、輸送部門の労働生産性が低い原因は、八幡製鉄所が八幡地区と戸畑地区に分散しているというレイアウトの悪さにあり、構内輸送の全てを無軌道輸送化することは不可能であるから、他の製鉄所と比べて八幡製鉄所の無軌道輸送化には限界がある。実際にも、新たな改善はなされていない。

<2>は、被告が独自に開発・導入したもので、本件業務委託とは無関係である。

<3>については、原告らの従事するディーゼル機関車(以下「DL」という。)ないし電気機関車(以下「EL」という。)の運転と信号列車整理の業務は、「鉄道運行管理オンラインシステム」の本体を構成する不可欠の部門であって、これがなければ鉄道輸送は成り立たず、ここに人員がいなければ鉄道輸送は停止する。つまり、原告らは、もともと余剰人員ではなく、本件出向は余剰人員の解消とは関係がない。

<2> 日鐵運輸に業務委託する必要はなかった。

「鉄道運行管理オンラインシステム」や鉄道設備のほとんど全ては被告のものであり、日鐵運輸には鉄道輸送業務を行うための人材はおらず、本件業務委託後七年間にわたり、右業務に従事する人員のほとんど全ては被告からの出向者が占めている。

つまり、日鐵運輸は、業務委託される業務を遂行すべき物的設備、人的設備をなんら持ち合わせていないのであって、被告から受け入れた出向者を、被告の要員として供出するバイパスの機能を果たしているだけである。

被告は要員の弾力的運用とか、各協力会社間の管理業務の重複の解消などと称しているが、出向者が無軌道施設に回されるなどの弾力的運用がされた事実はなく、また、無軌道部門に他企業を入れる等の矛盾したことをし、日鐵運輸のほかにも株式会社峰製作所(以下「峰製作所」という。)や山九株式会社等を新たに加えてより重複化を進めている。

(二) 本件出向命令により原告らが受けた不利益

(1) 所定内労働時間

原告らは、出向しなかった労働者に比べ、平成元年四月一日からの一年間で、所定内労働時間で一四・五時間の長時間労働を余儀なくされ、更に、その不利益は、平成三年には三六・二五時間に、平成四年には五八時間に、平成五年には七九・七五時間にまで拡大している。

(2) 所定外労働時間

年間所定外労働時間については、原告北本において出向以前は〇ないし七時間であったものが、出向後一〇一・五時間ないし一八〇・〇時間に増大し、原告日高においても、出向以前は〇ないし二一時間であったものが、出向後は五一・七五時間ないし一七八・〇時間に増加している。

(3) 賃金等

被告と日鐵運輸との年間所定内労働時間差について、原告北本の場合、仮に被告に勤務したならば支給される過勤務手当から、出向手当Bに切り替えられたことにより、年間三九二六円ないし七万六五〇九円の不利益を、原告日高も、年間一万一二八一円ないし六万〇三二〇円の不利益を被っている。

(三) まとめ

被告は、本件出向を実施しなければ雇用を維持できないほど経営が悪化していたわけではなく、本件出向に業務上の必要性は全くなかった。

そして、被告は、本件出向によって労働条件を切り下げ(原告らの労働時間の増加、休日日数の減少とそれによる休日出勤手当の不払い)、中期的には在籍出向者を転籍させ、人件費を削減する等のコストダウンの利益を得たが、原告らは何らの利益も受けず、出向前後で、勤務地や業務内容が全く変わらないのに、前記のような重大な不利益を受けている。

ところで、やむを得ない人員削減の手段として整理解雇をするには、<1>業務上の必要性(客観的に経営危機に直面し人員整理がやむを得ないこと)、<2>解雇回避義務の履行(解雇に訴える前に希望退職募集、再配置等の余剰職員を克服する努力がなされていること)、<3>整理解雇基準の合理性、<4>労働者・労働組合と十分に説明と協議を尽くすことの四つの要件が必要であるが、雇用調整型の出向は、整理解雇の脱法形態として利用される危険性が強いから、右に類似した解釈が必要であって、業務上の必要性を厳格に考えるべきである。殊に、本件のような先制的な雇用調整としての出向命令には、業務上の必要性を一層厳しく考えるべきである。

したがって、本件出向命令は、業務上の必要性がないのに、先制的な雇用調整として、かつ、整理解雇の脱法行為としてなされたものであるから、権利の濫用であって、無効である。

4  労働者派遣法三二条二項の脱法

(一) 本件出向と労働者派遣法にいう「派遣」との同質性

本件出向命令においては、第一段階として、原告らを現職である八幡製鉄所生産業務部輸送掛から労働部労働人事室労働人事掛に配転する命令とその履行、第二段階として、同掛から日鐵運輸へ出向を命じる命令とその履行という各段階を経ることになっている。

ところで、第一段階においては、原告らには、被告の業務命令により他企業へ出向する、つまり実質的に「派遣労働」に従事することだけが予定されている。

また、本件出向は、第一に労務指揮権が出向(派遣)先の日鐵運輸に存在し、第二に賃金は被告が支払い、第三に労働条件は出向(派遣)元の被告と労働組合との協定による(被告との労働契約内容により、出向〔派遣〕先での労働条件が基本的に決定される)という点で、「自己の雇用する労働者を、当該労働契約関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し、当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない」という労働者派遣法二条一号の「労働者派遣」の定義に合致する。

そして、出向と派遣とを区別する最大のメルクマールは「当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするもの」か否かであるが、本件において、労働契約の本質的部分をなす賃金支払いの権利義務関係については、日鐵運輸が原告ら出向者に支払う賃金は業務委託契約によって被告が日鐵運輸に支払う委託料に外ならず、形式上は、被告の日鐵運輸に対する委託料、日鐵運輸の原告ら出向者に対する賃金であるが、実体は被告が賃金支払義務者として原告ら出向者に直接に賃金を支払っているものとみるべきである。実際、出向後の原告らに対する給与は「所属、労働人事室、日鐵運輸」と記載された被告名義の給与明細票により、被告から支払われているし、本件出向によって休日数の減少及びそれに伴い本来ならば支給を受けたはずの休日出勤の割増手当て分のカット等の原告らに生じた労働条件の低下を、被告から支払われる委託料から被告の利益分として控除されたものと解することができる。結局、本件出向は、労働者派遣の場合と同じく、被告(派遣元)が賃金支払義務者として、委託料(派遣料)より労働条件の不利益変更(手数料)の名の下に被告(派遣業者)の利益分を控除して賃金を支払うのと本質は同じである。

さらに、本件において、日鐵運輸が原告らを雇用していないことは、被告が自分の給与体系に従って賃金を支給し、日鐵運輸の賃金分の実体は本件出向と一体となった業務委託契約の委託料にすぎないこと、通勤交通費、賞与、労働災害補償等については、被告が業務委託契約の委託料から支給していること等からみて明らかである。

(二) 本件出向命令の脱法行為性

労働者派遣法は、一般労働者として雇い入れた者を労働者派遣の対象とする場合、当該労働者の同意を要件としている(三二条二項)。

ところが、本件出向の場合、一般労働者である原告らが労働部労働人事室労働人事掛に配転させられた結果、事実上原告らは派遣労働者と同じ立場に立たされ、出向名目で他企業へ同意を要件とすることなく「派遣」されるに等しい状態となっており、これは、労働者派遣法が要求する同意を形骸化することを狙った脱法措置というほかない。

前記のとおり、本件出向は、<1>業務上の必要性がないのに業務委託して出向を行い、<2>経営指導、技術指導の実施ではなく、<3>職業能力開発の一環として行うものでもなく、<4>復帰を全く予定しない出向であり、そのために、被告と日鐵運輸との間で三年ごとに出向の期間が繰り返し延長されているものであり、仮に、本件出向が在籍出向であるとしても、「社会通念上業として行われていると判断されるもの」といわざるを得ず、労働者派遣法三二条の労働者個人の個別的な同意を必要とするものである。

したがって、本件出向の実質は「派遣労働」であり、原告らの同意を欠く本件出向は違法であり、無効である。

四  被告の主張の要旨

1  本件出向命令の法的根拠

出向命令は、出向させることが労働契約の内容となっていたり、就業規則や労働協約に根拠規定があれば、当然発令でき、発令の際に労働者の個別的同意は必要ではない。

日本における終身雇用的労働契約にあっては、契約締結の際、労働者は将来にわたり包括的に労働力の処分を使用者に委ね、使用者はそれに基づき労働力配置権及び配置変更権を取得するが、その範囲・内容は、就業規則や労働協約により規律されるのが通常であり、特に労働契約に限定がない限り、出向も配転と同様、いわゆる人事権の行使として、就業規則や労働協約を根拠になし得ることは当然である。

本件においても、原告らは被告に対し、就業規則を遵守する旨の誓約書を提出しており、本件出向命令時の平成元年七月一日施行の就業規則には「社員に対しては、業務上の必要により社外勤務をさせることがある。」(五四条)と規定されているが、採用当時交付され、同時に採用された他の従業員とともに逐一説明を受けた就業規則にも同文の規定があった。

また、被告は連合会との間にユニオン・ショップ協定を含む労働協約を締結し、原告らも右協定に従い組合員となることを義務付けられ、右労働協約の適用を受けるが、右労働協約も「会社は、業務上の必要により、組合員に社外勤務をさせることがある。」(五四条一項)と規定する。

さらに、被告は連合会との間で右労働協約五四条二項に基づき社外勤務協定を締結し、出向者の労働条件を明確にしている。

したがって、被告と原告らとの労働契約の内容には、在籍出向として社外勤務させることが含まれており、原告らもそれを承諾して被告と労働契約を締結したのであるから、被告は原告らに対し出向を命じることができ、原告らはこれに従うべき義務を負担する。

なお、本件においては、転勤その他個々の人事に労働組合との協議や同意を要件とする、いわゆる協議約款や同意約款を含む協定は存在しない。

2  本件出向の法的性質

就業規則に「社員が第五四条により社外勤務を命ぜられたときには、休職とすることがある。」(五六条一項)、「前項の休職期間は勤続年数に通算する。」(同条二項)とあり、実態的にも、給与・賞与等の支給が被告の規定に基づくこと等から、本件出向はいわゆる在籍出向である。

3  八幡製鉄所における構内輸送体制の合理化(本件出向の必要性・その一)

(一) 構内輸送作業の改善の歴史

一般に、銑鋼一貫生産を行う製鉄所においては、製鉄所の構内輸送部門は、円滑な鉄鋼生産活動を支える付帯部門として位置付けられるが、八幡製鉄所においては、八幡、戸畑両地区での二元的生産体制、工場や倉庫の複雑な配置による構内輸送経路の錯綜、輸送需要構成の多様化等、輸送作業の効率向上に対する多くの構造的な制約要因が存在していたので、被告は、構内の各生産設備・倉庫等の集約統合と配置の簡素化による物流経路の合理化を図り、蒸気機関車からDLへの切替え、トーピードカーの導入等の各輸送設備の改善を図ってきた。

(二) 八幡製鉄所における構内輸送体制の問題点

一般的に、構内輸送作業の作業量の変動に対しては、要員の弾力的運用によって対処するのが最も有効であるが、被告にとって、輸送は専門分野ではないため、要員の弾力的運用の実務や知識に乏しいにもかかわらず、鉄道輸送作業自体を直営で行っており、国内鉄鋼各社の製鉄所においては、鉄道輸送から、近年の技術革新により進歩した無軌道輸送へと転換する傾向にあったが、八幡製鉄所においては、依然として、無軌道輸送よりもコストと効率の点で劣る鉄道の占める割合が高く、独自の輸送に関する情報の収集や伝達面におけるシステムはいまだ構築されていなかった。

この点、国内鉄鋼各社及び被告の他の製鉄所では、鉄道輸送を含めて構内輸送作業をほぼ全面的に輸送の専門会社である協力会社に業務委託している例があり、八幡製鉄所においても、鉄鋼各社の主力製鉄所の水準に遠く及ばない構内輸送作業の労働生産性の改善に向け、構内輸送体制を抜本的に見直すことが急務となっていた。

(三) 「製鉄事業中期総合計画」及び「複合経営推進の中長期ビジョン」(以下、まとめて「中期総合計画」という。)

昭和六〇年秋の先進五ケ国蔵相会議における政策的合意以降、五〇パーセントにも達する円高が進行し、被告ら高炉業界は国際競争力を根底から覆され、従来とは質の異なる構造的苦境を強いられるに至り、国内の鉄鋼需要産業が生産拠点を海外に移転し、資機材の調達先を海外に求めるなど、いわゆる産業の空洞化が急速に進行し、わが国の製品輸入も拡大傾向にあり、国内の鉄鋼需要が中期的に大幅な減少傾向にあった。

こうした状況の下、被告の昭和六一年度の業績は極度に悪化したため、被告は連合会に対し、昭和六二年二月一三日、中央経営審議会で、中期総合計画を発表したが、右計画は、総固定費・総資産の削減、特に総固定費の二五パーセント以上の削減を目標にしている。

このように、中期総合計画が策定され、収益力維持のための総固定費削減に向けて、製造部門のみならず輸送作業や試験分析作業等の付帯部門についても合理化が一層強く求められ、被告は、八幡製鉄所における構内輸送作業体制の見直しを早期に実施することを要請されることになった。

4  日鐵運輸への本件業務委託について(本件出向の必要性・その二)

(一) 業務委託の必要性

そこで、被告は、八幡製鉄所における構内輸送体制を抜本的に見直し、これを再構築して合理化するために、昭和六三年一二月二〇日、本件計画を発表し、<1>トラック、トレーラー等の技術革新により進歩した無軌道輸送手段を採り入れ、鉄道と無軌道の両輸送手段の分担関係を見直し、構内輸送全体の効率化を図り、<2>鉄道輸送における総合運行管理システムを開発・導入して、設備・要員の合理化を図るとともに、<3>鉄道輸送及びその関連作業について、従来の被告と協力会社との作業分担関係を見直し、協力会社を積極的に起用していくことにした。

(二) 本件業務委託

そこで、被告は、平成元年三月一日、直営であった鉄道輸送に関するDL、ELの運転作業、信号作業、信号列車整理作業及び鉄道車両の日常点検補修作業並びに株式会社山本工作所が業務委託を受けていた貨車の定期的点検整備作業について、協力会社として、八幡製鉄所戸畑地区における無軌道輸送作業、堺製鉄所及び君津製鉄所における鉄道輸送作業等を受託するなど輸送及び運輸の豊富な経験と高度な技術を有する日鐵運輸に業務委託し(本件業務委託)、鉄道輸送作業量の変動への弾力的対応、車両整備の分野での重複業務の解消を図り、将来的な更なる効率化を期待することにしたほか、信号所監視区域内の信号保安設備整備作業については、峰製作所に対する業務委託を実施することにした。

(三) 業務委託に伴う出向措置の必要性

本件計画に係わる諸施策のうち、鉄道から無軌道への輸送手段変更に伴う鉄道輸送量の減少や「鉄道運行管理オンラインシステム」の導入による作業の効率化等によって、対象職場の要員四〇名、本件業務委託によって、対象職場の要員一四八名が削減されることとなり、八幡製鉄所鉄道輸送部門に大量の人員余力が発生したが、前記のとおり、被告は中期総合計画の推進過程で大量の人員余力を抱えており、製鉄所内での余剰吸収には限界があることから、委託する業務に従事する従業員の雇用確保の観点からは、委託先会社への出向措置を講じる必要があり、日鐵運輸及び峰製作所が鉄道輸送作業及びその関連作業の円滑な遂行に必要な人員を直ちに確保・養成することも困難であるから、従前より当該作業に従事し、必要な技能を有する者を対象に出向措置を講じる必要があった。

そこで、被告は、日鐵運輸及び峰製作所と協議し、対象職場の稼働人員(在籍人員から、高齢者や病気休職者等実際には作業に従事していない者を除いた人員)のうち、被告が引き続き担当する輸送計画作業及び輸送設備管理作業に従事する者約三〇名を除き、本件業務委託に伴い、日鐵運輸へ一三三名、峰製作所へ八名の合計一四一名の出向措置を実施することとした。

5  八幡労組との折衝

(一) 中期総合計画に対する労働組合の態度

前記のとおり、被告は連合会に対し、昭和六二年二月一三日、中期総合計画を発表したが、その後、一五回に及ぶ中央経営審議会における連合会との折衝を重ねた結果、同年五月二〇日、連合会から、中期総合計画について了解する旨の態度表明がなされた。

(二) 本件業務委託の出向措置を含む人員措置についての労組の態度

昭和六三年一二月二〇日、被告は八幡労組に対し、本件計画の実施及びこれに伴う要員改訂と人員措置について提案し、その後、八幡労組と折衝を重ねたところ、八幡労組から、同月二七日、被告の提案を了解する旨の態度表明がなされた。

6  本件出向命令に至る経緯

被告は、八幡労組の前記了解表明後、原告らを含む一四一名を出向者として人選したが、原告らについては、出向に同意しなかったので、前記のとおり、本件出向命令を発令した。

7  原告らの不利益について

(一) 職場の変化、職務の変化の有無

本件出向においては、職場は変わらず、転勤による家庭生活への影響はなく、職務も従前と同一で、新しい仕事を覚えることに伴う苦痛も生じないので、原告らは、仕事、通勤その他生活上の不利益を何ら受けない。

(二) 労働条件について

(1) 年間所定内労働時間の差

本件出向後、被告がいわゆる時短を行った結果、日鐵運輸の方が年間所定労働時間が多くなったが、これは、勤務時間は出向先の規定に従う(社外勤務協定六条一項)ことによるものであって、出向後に原告らの労働条件が不利益に変更されたわけではなく、この差については、出向手当Bの支給により補填されている。

(2) 出向者の給与

給与については、基本給(基準内給与)は、出向前と同額とし、被告が出向先支給分に差額を加えて支給し(社外勤務協定一五条)、賞与についても、社内勤務者と同じ計算式により、出向前と同額が支払われる。また、出向者は、出向に伴い出向手当A(五万円)が支払われる。

(3) 勤続通算

出向先の勤続年数は通算され、これを基準に退職金が計算されるから、原告らはこの点の不利益を受けない。

(4) 健康保険、社会保険の扱い

健康保険、厚生年金等の社会保険は出向前と同じで、被告が保険料の会社負担分を負担し、本人負担分を給与より源泉徴収するので、その点について特段の不利益はない。

8  同意拒絶権の濫用(仮定的主張)

被告は、人員に余力があり、人員に相応する職場を確保できず、人件費削減の必要性から雇用確保のために出向を発令せざるを得なくなっており、就業規則、労働協約に社外勤務のあることが規定され、社外勤務協定で社外勤務の条件が定められ、原告らも就業規則遵守を誓い、かつ、労働組合も雇用確保のため出向措置を了解し、現在三六パーセントにも上る従業員(組合員)が出向措置を了解して出向に同意している状況の下、本件出向による不利益が極めて小さいにもかかわらず、原告らが出向に対する同意権を主張するのは権利の濫用であって、原告らは同意を拒絶できないと解すべきである。

第三争点に対する判断

一  前提事実の認定(以下の認定に採用した証拠は、特に別個にあげたもののほか、<人証略>、原告ら本人尋問における各供述である。)

1  就業規則

原告ら入社以前の昭和二三年九月施行の就業規則において、業務上の必要により従業員に社外勤務をさせることがある旨規定されていた(<証拠略>)が、原告らが入社した当時の就業規則(<証拠略>・昭和三六年一〇月六日付け)及び原告らに対する本件出向命令発令時の就業規則(<証拠略>・平成元年七月一日付け)のいずれにも、同旨の規定がある。

原告らはいずれも、最初、期間二か月(試用研修期間)の臨時作業員として旧八幡製鐵株式会社に雇用されたが、その際、臨時作業員として就業規則を遵守する旨の誓約書(<証拠略>)をそれぞれ提出し、就業規則や入社案内の交付を受けた後、右二か月間の期間中に約一週間にわたり、講義形式で会社概要の説明を受け、そのうち二日に分けて四時間程度就業規則の説明を受け(<証拠略>)、原告北本は昭和三六年八月七日に、原告日高は同年一一月一五日に、いずれも被告の正社員になったが、その際も右と同旨の誓約書(<証拠略>)をそれぞれ提出した。

なお、原告北本は、被告入社に際して、新入社員教育において就業規則の説明は受けたが、作業職社員には社外勤務は関係ないと言われたなどと供述するが、当時においても社外勤務が原告ら作業職社員に全く無関係であったとは考え難く、無関係との説明があったというのは不自然であり、信用できない。

2  労働協約

原告ら入社当時の労働協約には、社外勤務に関する規定は置かれていなかった(<証拠略>)が、昭和四四年九月、それ以前は就業規則やその都度の取り決めなどによって運用してきた社外勤務について、社外勤務協定が締結され、同年一〇月一日から実施された(<証拠略>)が、内容的には、社外勤務を出向と派遣に分け、出向については、出向先に役員または従業員として勤務することをいい、期間は原則として三年以内であり、業務上の必要により期間が延長されることがあるが、出向期間は当社勤続年数に通算すること等を定めたものである。なお、出向関係条項に関する労働協約本文との関係については、次期改定時に改定することとなった。

翌昭和四五年三月三一日、旧八幡製鐵株式会社と旧富士製鐵株式会社との合併により被告が設立されたが、その後、全社に統一的に適用される労働協約締結に向けて、労使代表から構成される統一労働協約検討委員会が設置され、昭和四七年四月三日以降、右委員会で労働協約の内容について論議され、「人事」の中の「社外勤務」条項として「(1)業務上の都合により組合員を社外勤務させることがある旨規定すること。(2)社外勤務に関しては別に協定すること」について労使双方の見解が一致し(<証拠略>)、昭和四八年四月、その旨の規定が合併後の新しい労働協約に置かれた。

そして、その後の労働協約にも同様の規定が設けられ、本件出向命令当時は、ユニオン・ショップ協定(二条)により管理職や特定の社員を除いた組合員全員に適用される被告と連合会との間の労働協約(<証拠略>)に、同旨の規定が存在する(五四条一項、二項)。

また、社外勤務協定については、前記昭和四四年九月締結のものから何回か更新し(<証拠略>)、本件出向命令発令時の社外勤務協定(<証拠略>)に至っているが、内容的には、後記のとおり改定された出向手当に関する点や出向する組合員を社外勤務休職とする点を除いて、ほぼ同じである。

3  被告における社外勤務の事例

原告ら入社当時、既に、昭和三三年ころから、ブラジルのウジミナス製鉄所へ技術指導を目的として技術員が派遣され、その後、昭和三六年二月以降、作業職社員についても同様の派遣が実施され(<証拠略>)、昭和四一年には、マレーシアのマラヤ・ヤハタ製鉄所へ組合員が派遣された(<証拠略>)が、ウジミナス製鉄所への「派遣」については、派遣者の身分が、派遣と同時に日本ウジミナス株式会社の社員となるということもあり、実質は出向に近いものであった。

その後、前記のように、昭和四四年九月に社外勤務協定が締結されてからは、八幡製鉄所おいても、昭和四五年四月の曳船業務の委託化に伴う製鉄曳船株式会社への出向措置、昭和四六年四月の厚生課販売店業務の委託化に伴う八幡製鐵ビルディング株式会社への出向措置、同年七月の機関車点検・整備業務の委託化に伴う日鐵運輸への出向措置、昭和四九年一月の緑化環境整備事業の委託化に伴う八幡製鐵ビルディング株式会社への出向措置、昭和五三年四月の作業環境測定作業の委託化に伴う株式会社九州環境技術センターへの出向措置、昭和五四年七月の計算機パンチ・仕分作業の委託化に伴う八幡計算機株式会社への出向措置、昭和五五年一二月の独身寮給食作業の委託化に伴う三和給食有限会社への出向措置及び昭和五六年四月の戸畑地区コイル棟間自動車輸送業務の委託化に伴う日鐵運輸への出向措置がそれぞれ実施され、その後も、昭和五九年四月には中径管プレス・手入れ作業について、昭和六一年一月には電磁鋼板製品の梱包・積出作業、亜鉛メッキ製品の梱包・波付作業について、同年三月には地区機械緊急補修作業について、昭和六二年三月にはアンローダー運転作業及び電磁鋼板工場リフトカー運転作業について、同年七月には整備資材倉庫受払作業について、昭和六三年三月には水質試験作業について、平成元年二月には電磁スリット及び関連作業について、同年三月には条鋼精整付帯作業及び鉄道輸送作業について、同年六月には試験片加工作業について、同年九月には冷延ロール作業について、同年一〇月には小径SML精整作業について、同年一一月には溶銑処理作業について、平成二年一月には条鋼製品出荷仕訳作業及び水処理関連作業について、同年二月には薄板剪断関連作業について、同年五月には精整指令作業及び起重機運転作業について、同年八月には熱延精整作業について、平成三年一月には小径SMLアップセット作業について、同年二月には亜鉛メッキクレーン運転作業、自動面取機作業等及び圧延ロール整備作業について、それぞれ委託化され、それに伴い、出向措置も実施され、平成三年四月現在で、出向者は、被告全体で一万五八〇八名(内技術職一万〇二九九名)、八幡製鉄所技術職社員では二六五七名である(<証拠略>)。

4  出向に対する労働組合の対応

(一) 被告における労使交渉制度

被告の労働協約において、労使交渉制度としては、経営審議会、労使委員会及び団体交渉の三つがあり、それぞれ付議事項及び話し合いの程度が定められているが、組合員の労働条件については、団体交渉付議事項と労使委員会付議事項とに分けられ、賃金、労働時間、休日等は団体交渉付議事項として協議決定されるが、生産計画に伴う重要な要員事項等は被告と労働組合の各一〇名以内の委員から構成される労使委員会(旧労働協約における「生産委員会」)付議事項として協議されることになっている(<証拠略>)が、ここにいう「協議」とは、「会社と連合会または組合双方誠意をもって合意に到達するよう努力することであるが、協議した結果、合意に到達できないからといって、会社が決定し実施できないということではない。」(労働協約付則1(2))とされている。

そして、前記ウジミナス製鉄所等への派遣ないし出向については、旧八幡製鐵株式会社当時の労働協約に基づき、その都度、労使間で、「生産計画に伴う重要な要員事項」(一九条二項五号)として、「生産委員会」において、必要要員数や取扱い、派遣の条件等を協議し、労使合意の上で実施され、前記社外勤務協定締結後の委託化に伴う出向措置についても、大量の人員措置を伴う要員改定であったことから、当時の労働協約に基づき、その都度、労使間で、「生産計画に伴う重要な要員事項」(一九条二項五号)(<証拠略>)として「生産委員会」の場で、あるいは、「生産計画の変更等に伴う重要な要員事項」(二二条一項二号)(<証拠略>)として「労使委員会」の場で、要員改定の必要性やその人員措置等について協議し、労使合意の上で実施されている(<証拠略>)。

(二) 本人意思に対する組合の見解

ところで、前記のとおり、社外勤務協定締結後、委託化に伴う出向の事例が増加していったが、八幡労組は、昭和四九年一月の緑化環境整備事業の委託化に伴う出向に関し、対象者が了解しないときはどうするのかとの質問に対し、「今回の出向については、生活環境、勤務地等が全く変わらないので従来の転勤で問題が起こったのとは、性格が違うと考えている。従って、本人がただ単に出向したくないということでは、苦情として非常にとり上げにくいという見解である。」(<証拠略>)、あるいは、「大会で、本人意思の尊重について一定の整理をした。その内容は、客観的に見て、労働条件、生活環境の低下というような問題がある場合には、本人の立場に立って会社と交渉するが、理由が客観的にみて適当と認められない場合には、その人達の立場に立ち得ない。」(<証拠略>)と回答した。

そして、八幡労組は、出向措置の対象となった組合員に対し、昭和六二年当時、社外勤務協定の内容や組合のそれに対する取扱い等を記載した「出向者のしおり」(<証拠略>)の中で、事案ごとに趣旨や必要性等とともに、出向先会社の労働条件及び職場環境、本人の技能、経験、適性、将来性等を十分検討した上で、「本人合意を踏まえて」実施させるとし、さらに、昭和六三年の第七一回定例大会議案書(<証拠略>)においては、案件ごとにその趣旨や必要性等を細かく調査し、本人の事情が参酌されているかを本人の意思確認を通じて再確認し、問題が生じた場合は検討するが、その場合、組合員全体の公平感も考慮するとし、同年四月には、八幡製鉄所ステンレス厚板工場に関する業務委託に伴う出向措置についての組合の見解として、大幅な人員余力に対する雇用の安定的維持策としての出向措置の実施は避けられず、出向措置自体は、労働協約、社外勤務協定及び就業規則において労使間で包括的に合意している人事措置の一つであるとの前提で、前記「本人合意を踏まえて対処する」という運動方針の趣旨は、形式的な合意の有無にあるのではなく、個々の出向案件において本人の事情等が参酌されているか否かを、組合として本人の意思確認を通じて再確認して対処するということであって、単に出向したくないなどといった個人的感情だけを理由として出向に同意しない場合については、出向を認めないとすることはできないとし(<証拠略>)、その後、本件出向前後を通じてこの立場が維持されている(<証拠略>)。

5  八幡製鉄所の構内輸送体制について

(一) 構内輸送体制及び八幡製鉄所鉄道輸送部門の概要

銑鋼一貫生産を行う八幡製鉄所においては、原料の揚陸から高炉、転炉、圧延等の工程を経て、銑鉄から鋼そして製品へと移行する生産の流れに対し、構内輸送は、輸入原燃料のクレーン揚陸作業を担当する原料揚陸部門、原料揚陸後から出荷までを担当する構内輸送部門、倉庫からの払出作業を担当する倉庫部門、製品の出荷を担当する出荷部門の四つに組織され、構内輸送部門は、他の三つの部門同様、円滑な鉄鋼生産活動を支える付帯部門として位置付けられるが、大きく無軌道部門と鉄道部門に分けられている(<証拠略>)。

また、本件計画実施前は、被告の組織上、構内輸送は生産業務部の担当であり、生産業務部のうちの輸送管理室が、荷役や構内外輸送等の流通全般に関する企画及び総合調整、原燃料及び半製品の輸送作業、鉄道の信号作業及び信号保安設備整備作業等を担当し、出荷室が、輸出及び国内向け出荷に関する企画及び総合調整、製品の輸送作業を担当していた(<証拠略>)。

そして、八幡製鉄所における鉄道輸送作業及び関連作業の具体的内容としては、<1>構内の鉄道輸送を行うDL運転作業、<2>八幡地区と戸畑地区の間を結ぶ専用鉄道である「くろがね線」におけるEL運転作業、<3>DL及びELの運行状況、各製造工程における原燃料、半製品、製品及び発生屑等の輸送需要等を把握し、鉄道の運行計画の作成及び総合調整、DL及びEL運転者への連絡等を行う輸送計画作業、<4>戸畑地区における高炉工場から製鋼工場への溶銑輸送に関し、両工場間の路線の錯綜箇所にある信号所における踏切の開閉、DL運転者への運行可否の指示連絡、番線のポイントの切替え及び信号所監視区域内の列車運行監視等を行う信号作業、<5>「くろがね線」の起点、終点及び操車場における信号作業並びに輸送先や積荷の種類等による各貨車の編成作業を行う信号列車整理作業、<6>車両の定期点検や整備等を行う鉄道車両整備作業、<7>電気転轍器や車上転換器の点検及び整備、踏切にある警報機の整備作業等を行う信号保安設備整備作業、<8>DL及びEL、貨車、信号保安設備等の輸送設備に関する予算の編成及び管理、同設備に係わる協力会社の定期的点検及び整備の検収、線路を含めたこれら輸送設備に係わる資産管理を行う輸送設備管理作業があるが、このうち、原告北本は<1>のDL運転作業に、原告日高は<5>の信号列車整理作業にそれぞれ従事している(<証拠略>)。

(二) 構内輸送に係わる被告と協力会社の分担

本件計画実施前は、八幡製鉄所の構内輸送作業は、被告が直営する業務と、協力会社に委託して行っている業務とに分かれ、<1>鉄道輸送作業のうちのDL・EL運転、輸送計画、信号及び信号列車整理の各作業、鉄道車両整備作業のうちの日常点検及び補修作業、信号保安設備整備作業のうちの信号所監視区域内の複雑な作業については直営で行い、<2>戸畑地区における無軌道輸送作業及び鉄道車両整備作業のうちの機関車の定期的な点検・整備作業は日鐵運輸に、<3>八幡地区における無軌道輸送作業は山九株式会社に、<4>鉄道車両整備作業のうちの貨車の定期的な点検・整備作業は株式会社山本工作所に、<5>信号保安設備整備作業のうちの信号所監視区域外の比較的平易な作業は峰製作所に、それぞれ業務委託され、これらの協力会社がそれぞれ作業を担当していた(<証拠略>)。

(三) 八幡製鉄所の運輸部門の労働生産性

被告は、古くは、昭和三〇年から昭和三九年にかけて一五〇台の蒸気機関車を全てDLに切り替え、線路分岐部のポイント切替装置を転轍工による手動切替から電動の車上転轍器に替えるなどして九〇〇人を合理化したほか、昭和四三年から昭和六二年の過去二〇年間においても、遠隔無線を利用したDLのワンマン運転化、電動の車上転轍器の設置範囲の拡大等の新設備の導入のほか、設備の統廃合や業務委託を含む作業方法の改善を図り、一二二九名の合理化を実施した経緯がある(<証拠略>)が、昭和六〇年三月に日本鉄鋼協会における共同研究会の運輸部会労働生産性調査ワーキンググループが発表した昭和五九年度の全国主要製鉄所における運輸部門の労働生産性の調査結果によると、被告の名古屋製鉄所及び君津製鉄所については、他の鉄鋼会社の製鉄所に比べ、運輸部門における労働生産性が劣っていた(<証拠略>)。

これに対し、被告も独自に、右調査と同時期に同じ方法で被告の全製鉄所の輸送に関する労働生産性を調査したところ、<1>鉄道輸送部門の作業効率性の度合い、鉄道輸送への依存度を示す粗鋼量生産性、<2>鉄道輸送部門従業員一人当たりの運搬量を示す取扱量生産性、<3>取扱生産性につき輸送対象物が異なることについて能率も異なることがあることを考慮し、対象物の特性により一定の補正計数で補正した換算取扱量生産性、<4>取扱量生産性のうち、運転工だけ取り上げて一人当たりの輸送量をもって鉄道輸送の現場の効率性を端的に示す運転工取扱量生産性、<5>運転工以外の管理的作業従事者、下回り作業従事者等、物を運ばない従業員一人当たりの運搬量によって、輸送付帯部門の合理化・効率化の度合いを示す非運転工取扱量生産性のいずれにおいても、八幡製鉄所は、他社製鉄所だけでなく、被告の他製鉄所に比べても労働生産性が劣っていた(<証拠略>)。

6  本件計画の概要及び日鐵運輸への業務委託

(一) 本件計画発表当時の被告の状況等

昭和六〇年九月ころから昭和六一年九月ころにかけて、円が急騰し、同年一月、被告を含め高炉九社は、国の円高不況雇用対策として構造不況業種の指定を受け、同年二月一日から一年間、雇用調整助成金の交付を受けることになり、高炉五社(被告、日新製鋼、住友金属工業、川崎製鉄、神戸製鋼所)の九月中間決算は経常利益がいずれもマイナスとなる戦後最悪の状態に至り、昭和六二年一月には、鉄鋼労連がベア要求を断念し、被告ら高炉各社は雇用調整の一環として本格的な一時休業を開始し、労働省は、高炉各社の申請を受け、前記雇用調整助成金の対象指定を一年延長し、同年九月には、高炉大手五社は、中間配当の見送りを一斉に発表した(<証拠略>)。

(二) 中期総合計画

昭和六二年三月、学者、鉄鋼経営者、鉄鋼産業労働者及びマスコミ等の代表者から構成される「基礎素材産業懇談会」が通商産業省の諮問を受けて発足し、大幅な円高を背景とした中長期的に厳しい経済情勢に対する鉄鋼業界の対応について検討し、同年一〇月八日、今後の鉄鋼業の在り方を「新世代の鉄鋼業に向けて」と題し、中間報告として答申した(<証拠略>)が、その内容は、いわゆる鉄鋼寡消費型の経済構造への転換による国内鉄鋼需要の減少及び鉄鋼需要産業の現地海外生産の活発化による鉄鋼純輸出の減少により、粗鋼生産の低下傾向は避けられないとの見通しを前提に、鉄鋼業が、他産業に比しコスト構造において固定費が高比率にあることや円高による収益の悪化が予想されることを考慮し、人件費、減価償却費及び金融費用等の固定費削減の必要性、高稼働率を保つための余剰設備削減の必要性、出向の必要性を含む人員合理化の必要性等を示したものとなっている。

こういった状況下で、被告ら高炉大手五社は、対応策として要員削減を中心にした合理化計画としての中期的な経営計画を相次いで発表し(<証拠略>)、被告も連合会に対し、昭和六二年二月一三日、中央及び八幡製鉄所の経営審議会において、中期総合計画を提案した(<証拠略>)が、被告は、右計画において、特に総固定費を二五パーセント以上削減することを目標にしているが、要員については、生産設備体制の再編により約七〇〇〇名を、競争力強化の観点からの合理化により約一万二〇〇〇名を削減するとした(<証拠略>)。

(三) 本件計画の概要

被告は八幡労組に対し、昭和六三年一二月二〇日、八幡製鉄所の臨時経営審議会及び労使委員会において、輸送出荷部門の粗鋼量生産性(一月当たりの粗鋼生産量を輸送にかかわる全作業要員〔運転工と非運転工〕の人員で除したもので、輸送出荷部門全体の効率性を示し、当該製鉄所の競争力を表す。)の平均を月五五〇トンにすることを目標とした合理化計画として、本件計画を提案した(<証拠略>)。

本件計画の中で、被告は、八幡製鉄所の労働生産性が低い原因を、<1>他の製鉄所に比べて輸送手段のうち鉄道輸送割合が六〇パーセント強と高いこと、<2>無軌道輸送設備の機械化、大型化が遅れていること、<3>輸送作業量の変動に対応する要員の弾力的運用が不十分であり、輸送独自の運行管理システムすら構築されていないこと、<4>八幡・戸畑両地区での二元的生産体制に伴う両地区間の半製品等の輸送作業が不可避的に生じる上、工場・倉庫の複雑な配置によって構内の輸送経路が錯綜していること(<証拠略>)、<5>加工工程数が増加し輸送効率を低下させる高級多品種の製品が生産されていることの五点にあると分析し、<4>及び<5>の構造的な制約要因については、八幡地区は主として製品加工工場地域にし、戸畑地区には原料、揚陸、高炉、転炉及び一部圧延として、工場の種類を類別集約し結集させるとともに、工場の配置をできるだけ次の工程と直結するように変更して改善を計ることにし、<1>ないし<3>については、輸送部門の体制を抜本的に改める必要があるとした。

そして、<1>及び<2>については、当時、鉄道輸送部門は、関連設備として線路約一四〇キロメートル、機関車約五〇台、貨車約八七〇台を保有していたが、トラック、トレーラー等の無軌道輸送手段に係わる近年の技術革新の成果を採り入れ、鉄道と無軌道の両輸送手段の分担関係を見直し、無軌道輸送が可能なものは原則として全て無軌道輸送に切り替え、鉄道輸送はその特性を生かせる大量・熱物・重量物輸送に限定し、構内輸送全体の効率化を図ることにした。

また、<3>については、通信装置とコンピューターシステムを利用した「鉄道運行管理システム」を開発し、鉄道車両及びその運転要員を削減するほか、当時、原料揚陸部門は一〇〇パーセント、構内輸送部門のうちの無軌道部門は九七パーセント、倉庫部門は七三パーセント、出荷部門は九一パーセントにつき業務委託が実施されていたが、鉄道部門については、委託化は七パーセントであったので、他の製鉄会社及び被告の他の製鉄所のように、要員を弾力的に運用することを目指し、鉄道部門を輸送の専門会社に業務委託することにした。

(四) 業務委託先である日鐵運輸について

日鐵運輸は、昭和一七年一二月、旧日本製鐵株式会社八幡製鉄所の港湾運送に係わる多数の会社を集約して設立され、昭和四五年七月、現在の商号に変更したが、本店を北九州市八幡東区(以下、略)に、事務所を東京に、事業所を堺と君津に、営業所を福岡に、出張所を光に置く、資本金五億円、従業員一五六四名の株式会社である。

被告は、日鐵運輸の株式の約七六パーセントを保有し、全役員一〇名のうち社長ほか八名を派遣し、平成元年四月一日現在、日鐵運輸の全従業員の約一八パーセントにあたる二七四名は被告からの出向社員である。

日鐵運輸は被告から、関門港及び八幡製鉄所専用港における原料及び製品等の荷役、艀運送等の作業のほか、戸畑地区の無軌道輸送作業、堺製鉄所及び君津製鉄所の鉄道輸送作業、これら三製鉄所の機関車整備作業について業務委託を受け、機関車整備工場を有していたが、君津製鉄所において、昭和六一年五月にコンピュータによる情報処理を利用した運行管理の集中一元化を可能にする鉄道運行管理システムを開発、導入するなどしたほか、自動車、重機、建設機械の販売、輸送警備、常駐警備等の新規事業にも進出している(<証拠略>)。なお、前記のとおり、昭和四六年七月に八幡製鉄所における機関車点検・整備作業が、昭和五六年四月に八幡製鉄所戸畑地区の棟間無軌道輸送が、日鐵運輸に業務委託されているが、いずれの場合も、当該作業の従事者について日鐵運輸への出向措置が実施されている。

そこで、被告は、協力会社であり、被告以上の構内輸送業務等の経験と技術を持つ日鐵運輸に対し、直営であった八幡製鉄所の鉄道輸送に関するDL・EL運転作業、信号作業、信号列車整理作業及び鉄道車両の日常点検・補修作業、株式会社山本工作所が業務委託を受けていた貨車の定期点検・整備作業を業務委託することにより、鉄道輸送作業量の変動への弾力的対応、車両整備の分野での重複業務の解消を図り、八幡製鉄所における運輸部門の労働生産性の向上を目指すことにした。

7  本件出向措置の必要性

本件計画実施前の平成元年二月二八日当時、鉄道部門全体の要員は二一一名であったが、前記「鉄道運行管理オンラインシステム」の導入(<証拠略>)及び鉄道から無軌道への輸送手段の変更等による要員改定によって、四〇名が削減できたので、鉄道部門全体の要員は一七一名になった。そして、本件業務委託後も被告が引き続き直営で行う輸送計画作業及び輸送設備管理作業の要員が二三名であるから、残る一四八名が委託化対象要員とされた(<証拠略>)。

ところで、被告は、一方で、前記のとおり、中期総合計画の推進過程で大量の人員余力を抱えざるを得ず、八幡製鉄所においても右委託化に伴い鉄道輸送部門での大幅な余力が生じ、製鉄所内で余剰を吸収することにも限界がある(<証拠略>)ことから、従業員の雇用確保の観点から、委託先会社への出向措置を積極的に講じる必要があり、他方では、委託先会社である日鐵運輸及び峰製作所において、委託化される八幡製鉄所の鉄道輸送作業及びその関連作業を円滑に遂行し得る人員を直ちに確保、養成することは困難であった。

そこで、被告は、これら委託先会社と協議した結果、右一四八名について、七名の要員を削減し、日鐵運輸へ一三三名、峰製作所へ八名の合計一四一名について、出向措置を講じることとした(<証拠略>)。

8  中期総合計画、社外勤務協定の改定についての労使の折衝

(一) 中期総合計画についての労使の折衝

前記のとおり、被告の労働協約においては、労使交渉は、付議事項によって、話し合いの場及びその程度が定められているが、中期総合計画については、経営審議会の付議事項である「生産計画に関する重要事項」(労働協約一六条一項一号)等に該当し、話し合いの程度としては、「会社はこれについて説明または報告し、連合会または組合は意見を開陳」(同条二項)し、「労働条件に重大な影響があると認められるものについては、双方慎重に意見の交換を行う。」(同条〔覚書〕)ことになっている。

中期総合計画については、前記のとおり、大幅な要員削減を伴う計画であったので、連合会は、組合員の雇用確保を第一に考えることにして、右計画の背景や具体的内容について、被告から何度も説明を受けるとともに、労働組合としての意見を述べた上で(<証拠略>)、昭和六二年五月二〇日、中央臨時経営審議会において、右計画を了解する旨の態度を表明した(<証拠略>)。

(二) 社外勤務協定の改定についての労使の折衝

昭和六二年一一月五日、中央団体交渉において、被告は、「中期総合計画における約一万九〇〇〇人の要員減に対し、新規事業所への要員六〇〇〇人を見込んでも、現状余力を加えた平成二年度末の人員余力が約六〇〇〇人と見込まれるので、雇用確保維持のためには、出向措置を積極的に拡大し、少なくともその半数以上に出向措置を講ずる必要があると同時に、今後は、これまでの関連・協力企業を中心とした地元地域での出向に加え、異業種・異業態の産業・企業等や遠隔地への出向の実施、出向対象層の拡大、出向期間の長期化が避けられないが、給与・賞与について差額補填した上、出向先実労働時間と被告所定内労働時間差を過勤務とみなして過勤務手当を支給するという今までの扱いでは、今後の出向拡大や情勢変化により増大する労務費負担に耐え得ないとともに、社内勤務者について、臨時休業や労働時間管理等の諸施策を実施し、長期の業務応援派遣や所間応援、大量の転勤措置、配置転換を実施しており、これら従業員全体の処遇バランスにも顧慮する必要があるとして、連合会に対し、<1>社外勤務協定における月額四〇〇〇円の出向手当を廃止し、新たに出向手当A(五万円)を出向発令時に一時金として支給する、<2>出向先実労働時間と被告の所定内労働時間差の補填について、従来、被告規定の過勤務手当を支給してきたが、これを所定内労働時間差と出向先での過勤務時間とに分け、前者については、出向先との年間所定内労働時間差に応じ、年二回に分けて出向手当Bを支給し、後者については、出向先の割増率と過勤務手当算定の基礎単価を適用し、基礎単価の計算については補填分を加えた出向先基準内賃金を出向先所定内労働時間で除したものを適用する、<3>出向者の出向期間中の扱いについて、出向先従業員との一体意識の醸成の要請から社外勤務休職とし、その期間を勤続年数に通算することを提案した(<証拠略>)。

これに対し、連合会は、「現下の雇用環境の厳しさと今後の見通しのもとでは、基本的には、出向措置を雇用確保の施策として認めていかなければならないと考えている。」としながらも、被告が提案する「(右)措置はその影響等から容易に納得できるものではない」として、全組合員の問題として慎重に検討し対処するとの方針の下、各単位労働組合ごとに、機関・職場にこれを報告・討議を行い、その意向や疑問点を把握し、これを踏まえて中央交渉に臨み、被告との間で、主に、<1>出向手当については、これを出向手当Aとして見直すとしても、これが与える生活への影響や負担等を考慮し、この支給方法と補償措置を別途検討すること、<2>所定内労働時間差の補填については、その単価水準を引き上げ、月払いとした上で、これを諸手当の単価計算に関わる基準内賃金の中に算入するとともに、適切な移行措置を検討すること、<3>過勤務・深夜就業に対する割増率については、これまでどおりの扱いとすること、<4>社外勤務休職の扱いについては、今回の見直し趣旨とは直接的な関係がないこと等を勘案し、別途話し合うとの方針で交渉した(<証拠略>)。

そして、被告と連合会との六回にわたる交渉の末、昭和六二年一二月二三日、第七回交渉において、<1>及び<4>については会社提案どおりとするが、<2>の出向手当Bについては、連合会の要求をいれて被告の提案を一部修正し、年間支給額(出向先と被告との所定内労働時間差につき、区分に応じて二五時間ごとに年間三万円単位。ただし、移行措置として一八か月間は、四万円を単位とする。)を月割で支給し、これを過勤務及び深夜手当の単価算定の基礎給に含める、<3>の過勤務・深夜就業に対する割増率についても、連合会の要求をいれて被告の提案を一部修正し、出向先での過勤務手当、深夜就業手当の計算の単価算定基礎給に出向手当Bを含め、割増率については従来どおり、被告の割増率を適用するということで合意し、昭和六三年三月二日、社外勤務協定を改定し、同年四月一日から施行されることとなった(<証拠略>)。

9  本件計画に伴う人員措置についての労使の折衝

本件計画に伴う要員改訂及び人員措置の基準方針については、労使委員会の付議事項である「生産計画の変更等にともなう重要な要員事項」(二二条一項二号)等に該当し、その話し合いの程度としては、「協議」(同条二項)するものとなっているので、前記のとおり、昭和六三年一二月二〇日、被告は八幡労組に対し、労使委員会において提案したが、その際、出向先である日鐵運輸及び峰製作所の主要な就業条件として、年間所定内労働時間、年間休日日数、就業時間、実労働時間及び交代者の勤務形態を説明した(<証拠略>)。

その後、同年一二月二七日、平成元年一月九日、同月一三日及び同月一九日と労使の折衝が重ねられ、委託化の必要性自体についての疑問のほか、出向者の人選、出向者の異動や配転の有無等について疑問が出され、特に、出向者の勤務形態が被告の就業規則では四組三交代制であるのに、日鐵運輸では三組三交代個人指定休日方式になる点について、鉄道輸送作業が厳しい作業環境である屋外での肉体的負荷が高い作業であることや高齢者が多い職場であることを考慮して、四組三交代制にできないかという要求が出された(<証拠略>)。

八幡労組の右要求に対し、被告は、当初、出向者が従うべき就業条件を決めるのは日鐵運輸であって、今回の出向者だけを日鐵運輸の労働者と異なる勤務形態とすることは難しいとしていたが、労働組合の要求が強いことに対応して、日鐵運輸に対し、鉄道輸送業務の実情を説明して交渉した結果、日鐵運輸において個別例外的な運用の措置を講じることになった。すなわち、日鐵運輸は、鉄道輸送作業職場については四組編成とするが、この編制による年間非番日数九一日と日鐵運輸における当時の年間休日日数八五日との差については、予備直勤務配置日とし、これを「調整休務日」として扱い、相当する労働時間は出向先の年間所定労働時間から控除することとした。

これに対し、八幡労組は、実質上は出向前と同様の勤務編制が維持されるとともに、通常、予備直勤務配置日には、勤務の必要性が生じないので、年間休日日数としても実質九一日が確保できたとして、右の四組編成とした措置について「素直に評価する」と述べた(<証拠略>)。

そして、八幡労組は被告に対し、平成元年一月二七日、労使委員会において、構内輸送体制の抜本的見直しが必要であることについては理解できるが、今回の措置が当該職場組合員のみらず、協力会社・従業員及び関係工場等にも影響することから、慎重に検討したが、その結果、業務委託によって、高い専門性や生産変動に対する弾力的な対応が可能となり、効率的な輸送体制の基礎が確立され、出向措置についても、鉄道輸送作業、鉄道車両整備作業及び信号保安設備整備作業における技術・技能の継承に加えて、委託後の業務の円滑な移行という観点からやむを得ないと理解し、職場から強い要請のあった勤務形態等について、組合及び職場の要請に沿った被告の見解が示されたこと等を総合的に判断して提案を受け止め、被告が具体的な人選に入ることを了解する旨の態度を表明した(<証拠略>)。

10  本件出向命令に至る経緯

被告は、八幡労組の前記了解表明を受け、平成元年二月ころ、日鐵運輸及び峰製作所との協議に基づき、従前より当該鉄道輸送作業に従事していた者の中から、原告らを含む一四一名を人選し、各人と個別に話し合ったところ、原告らほか二名を除く一三七名は出向に同意し、君津製鉄所応援中の一名を除いた一三六名は同年三月一日に、右一名については同年四月一日に、それぞれ出向したが、原告らは同意しなかった(<証拠略>)。

被告は、その後も原告ら四名に対し、出向命令の発令を猶予して、出向に応じるよう説得したが、八幡労組が、同年四月七日、被告が出向を拒否する原告らに同月一五日付けをもって日鐵運輸への出向命令を発令することを了解する旨の態度を表明したことを受け(<証拠略>)、前記のとおり、原告らに対し本件出向命令を発令し、原告らは、同月一七日、日鐵運輸へ赴任した。

右命令の内容は、いずれも「八幡製鉄所労働部労働人事室労働人事掛勤務を命ずる。社外勤務休職を命ずる(日鐵運輸へ出向)。」というものであるが、原告らに労働人事室勤務を命じたのは、被告における出向措置一般の取扱いとして、出向者を元の職場に在籍したままにしておくと、出向後も、各職場管理者が、出向者に関する人事管理、勤務管理、給与管理等の管理内容について、各出向先との間で個別に連絡を取らねばならなくなり、事務処理が錯綜し、煩雑となることから、便宜上の措置として、被告の労働人事室が各出向先との間でこれらの事務処理を一元的に行うことを目的としたものである。

なお、原告らに対する本件出向措置は、本件出向命令の発令から三年経過した平成四年四月一五日、被告から原告らに対し、業務命令の形で、「業務上の必要性がある」(社外勤務協定四条但書)として出向期間を三年間延長され、さらに三年間経過した平成七年四月一五日、同様に三年間、出向期間が延長されている。

二  本件出向命令の根拠について

1  一般に、出向とは、労働者が出向元の指揮命令から離れて、出向先の就労場所において、その指揮命令を受けて労務の給付を行う労働形態のことをいうが、本件出向は、社外勤務協定に、「出向する組合員は社外勤務休職とする」(三条)、「この休職期間は当社の勤続年数に通算する」(四条二項)とあるように、出向元である被告との間の労働契約を合意解約し、出向先である日鐵運輸との間で新たに労働契約を締結するのではなく、被告の従業員の身分を維持したまま、原告らを被告の労働人事室に在籍させた上で、出向先である日鐵運輸の指揮命令の下にその業務に従事することが出向元である被告に対する労務の給付になっている、いわゆる在籍出向であると認められる。

2  ただ、本件出向は、その背景にある中期総合計画が大幅な要員削減を内容とするものであり、今後、被告に大量の要員補充の必要性が生じることは期待できず、また、構内輸送部門を協力会社である日鐵運輸に全面的に業務委託することを内容とする本件計画に基づくものであり、構内輸送部門は被告にとって付帯的事業であって、これを再び直営に戻す可能性はあまり考えられないから、実際に二度の出向期間の延長措置がとられたように、出向期間が長期化する可能性が高かったものである。

したがって、本件出向は、被告との労働契約が合意解約されるいわゆる転籍出向ではなく、在籍出向であり、出向期間の明示があり、社外勤務協定等によって社内勤務者の労働条件と同様に扱われるよう保障され、出向先である日鐵運輸の業績悪化等により就労の必要がなくなれば当然被告へ復帰するなど、被告の従業員としての地位の保障があるとはいえ、実質的にみると、長期化することが予測できるという意味では転籍出向に近いものがあるといわざるを得ず、本件出向命令の法的根拠を検討する上で、この点を軽視することはできない。

3  そして、在籍出向といえども、出向によって労働者に対する指揮命令権が出向先に変更するのであるから、民法六二五条の趣旨である労務給付義務の一身専属性から、また、出向は一般に重要な労働条件の変更であるから、労働基準法一五条の精神から、出向命令を正当とする根拠は労働者の同意に求められるべきである。

ただ、労働者の同意を要するとした趣旨は、出向を命じられる労働者を保護することにあるから、出向命令に応じて出向先に対しても労務に服するなどの義務を負うことが労働契約の内容として含まれるか否かという観点から検討すべきである。そして、わが国の慣行である終身雇用制を前提とする限り、労働契約は相当長期にわたる継続的契約であって、締結後に事情が変更することによって、その内容が合理的な限度で変更することは当然認められるべきであるから、労働契約締結時(入社時)に出向に対する事前の包括的同意が認められるか否かだけではなく、締結時及びその後の労使関係に関するすべての事情も考慮し、出向命令時において、右命令に応じる義務が労働契約の内容となっていたか否かという観点から検討すべきである。

これに対し、原告らは、民法六二五条一項は、出向について労働者の個別具体的な同意を要するとした強行法規であるとか、あるいは、出向を、出向元と出向先と出向者の三者間の法律関係と捉える必要があるとか、出向は指揮命令権行使に関する義務の移転を伴うものであって、免責的債務引受を含むものであるなどとして、出向者の個別具体的同意の必要性を主張する。

しかし、民法六五二(ママ)条一項を右のように解釈することはできないし、出向を三者間の法律関係として検討することと、出向者の個別具体的同意が不可欠であるということは必ずしも結び付かず、出向の内容として労働者に対する指揮命令権の変更が含まれるとしても、出向義務の存否を決するについては、それのみならず出向者の労働条件全体の検討が重要であるから、形式的に免責的債務引受の法理を適用するのは相当ではなく、出向法律関係の成立には当該出向者の個別具体的同意が不可欠であるとの主張は失当というべきである。

4  そこで、本件について検討すると、前記認定のとおり、原告ら入社時の就業規則には、業務上の必要により従業員を社外勤務をさせることがある旨規定されており、原告らは、この就業規則を遵守する旨の誓約書を提出し、入社時に就業規則についての一応の説明を受けたことが認められるから、出向を含む社外勤務を命じられることのあることが一般的に労働契約の内容として含まれていたものということができる。原告らは、作業職社員は右規定の適用を除外されていたと主張し、作業職社員につき休職規定の適用が除外されていたことを理由にあげるが、作業職社員とその他の社員とで、社外勤務の内容を区分していないことは、その文言から明らかであって、作業職社員に休職措置がとられないからといって、作業職社員が命じられる社外勤務を派遣に限定していたと解することはできない。また、出向事例の推移や労使交渉の経緯から、右の社外勤務規定が作業職社員につき派遣に限定するものであったとまで認めることはできない。

ただ、被告における出向事例の推移をみれば、入社時の当事者の意思として、社外勤務として、本件出向のように、業務委託に伴う出向であって、出向期間の長期化が避けられない特殊な形態のものが含まれていたと解することは困難であるから、本件出向についてまで原告ら入社時の事前の包括的同意を認めることはできない。

しかし、原告らが被告に入社してから本件出向命令に至るまでの間に、被告と労働組合との間で、昭和四四年九月に出向期間等出向者の処遇を定めた社外勤務協定が締結されたこと、その後、労働協約の上でも、業務上の必要により会社は組合員を社外勤務をさせることがある旨改定されるとともに、本件出向のような業務委託に伴う出向の事例が増加していったこと、これに対し、労働組合は、その都度、該当する職場の労働者の個別の意見に配慮しつつ、要員改定としての出向措置の必要性やその人数、出向の際の労働条件等について被告と協議して内容を定め、労働組合の了解の下に多くの出向が実施された経緯があること、また、その間、労働組合は、出向者の同意について、労働条件、生活環境の低下というような客観的問題がある場合には、本人の立場に立って被告と交渉するが、単に出向したくないという感情的理由だけの場合等、出向を拒否する理由が客観的に適当とは認められない場合には、その立場に立ち得ない旨の見解であったことが認められる。

そして、昭和六三年三月二日に改定された社外勤務協定についても、労使間でかなり厳しい交渉の末、被告の提案が労働組合の要求により一部変更される形で合意に至っており、本件計画に基づく日鐵運輸への業務委託及び本件出向についても、その必要性や具体的な措置について労働組合の了解の下で行われ、特に、本件出向における出向者の勤務形態については、原告ら職場の労働者の意見を背景に労働組合が強く要求したことより、被告の勤務形態を維持できるように、出向先会社である日鐵運輸の勤務形態とは異なる特例的な措置がとられていることが認められる。

したがって、本件出向命令当時、出向を含めた社外勤務に関する就業規則、労働協約及び社外勤務協定の規定を前提に、本件出向のような、業務委託に伴う期間が長期化することが予想できる出向についても、その必要があり、出向者に労働条件や生活環境の上で問題とすべき事情がなく、適切な人選が行われるなど合理的な方法で行われる限り、出向者の個別具体的な同意がなくても、被告は出向を命じることができることが慣行として確立し、このことが被告と原告らとの間の労働契約の内容として含まれていたと認めるのが相当である。

5  就業規則及び労働協約に関する原告らの主張について

原告らは、<1>本件における就業規則や労働協約の規定は、文言上「出向があり得る」という訓示的な規定としか解釈できない、<2>本件のような出向が認められるなら、使用者は裁量によって個々の労働者の労働条件を不利益変更できることになり、統一的・画一的処理に反し不当である、<3>出向元の就業規則ないし労働協約は、出向先の労働規律と労働条件を制約するものではないから、出向に関する事項について定めることはできない、あるいは、労働組合には、出向の意思のない労働者に出向義務を強制ないし創設する能力を持たないので、労働協約に定めることはできないなどと主張する。

しかし、<1>については、確かに、就業規則及び労働協約における社外勤務に関する規定自体は単純で抽象的なものであるが、労働協約の規定を受けて労使間で締結された社外勤務協定が存在し、そこでは、出向期間等について具体的に定められており、また、個々の出向に関しては、労使間で出向先や要員等について協議され、労働組合の了解の下に実施されてきた慣行が存在するのであって、これらの点は、就業規則及び労働協約の出向に関する規定の有効性を支えるものとして総合的に考慮されるべきであるから、就業規則及び労働協約の規定の形式的文言をことさら強調する原告らの主張は失当であるといわざるを得ない。

また、<2>については、確かに、出向先の労働条件が出向元に比べて劣悪な場合に使用者が特定の労働者を恣意的に出向させたときは、指摘の問題点が現実化するが、出向者は社外勤務協定によりその地位が守られているほか、出向命令の必要性及び合理性に問題があれば、出向の義務はなく、不当な結果を招くことはないのである。本件出向において、出向を必要とする事情があり、出向命令の合理性を特に問題とすべきような、労働条件の低下や人選等の経緯が認められないことは後記のとおりである。

さらに、<3>については、出向元の就業規則ないし労働協約に出向先の労働条件等を規律する効力がないが、そのため、出向者と社内勤務者の労働条件に不当な格差が生じないように社外勤務協定が存在するのであって、合理的内容である限り、出向に関する事項についても、就業規則ないし労働協約において、当然定め得ると解するのが相当であり、出向に関する事項について、就業規則や労働協約から一切切り離してしまうことが、労働者の権利保障につながるものであるか疑問というべきである。

6  出向命令の運用について

さらに、原告らは、被告における出向命令の運用として、出向者の具体的同意を得るという解釈・運用が定着していたと主張し、確かに、過去に同意しない者に出向命令が発令されなかった事例が存在する。

しかし、右事実を以て、出向対象者の具体的同意を得るという解釈・運用が定着していたとまで認めることは困難である上、かえって、前記のとおり、労働組合は、あらゆる場合に出向者の個別具体的同意がない限り、出向を認めないという立場をとらなかったというべきであり、労働組合が原告ら主張の運用を要求していたとの事実を認めることもできない。また、原告らが援用する出向合意確認報告書(<証拠略>)は、八幡労組労働企画部宛のもので、組合として会社との対応のため作成しているものであって、これがあるからといって出向対象者の個別具体的同意を必要とする運用があったと認めることはできない。そして、他に右運用の事実を認めるに足りる証拠はなく、原告らの右主張は採用できない。

三  本件出向命令の必要性について

1  中期総合計画発表当時、急激な円高ドル安が進行し、被告ら高炉五社が一斉に中間配当の見送りを発表し、被告自身も巨額の経常損失を計上し、鉄鋼業界全体が構造不況業種の指定を受け、雇用調整助成金の交付を受けるなど、被告にとって厳しい経済情勢にあり、中長期的な鉄鋼業界の見通しとしても、学者や経営者だけでなく、鉄鋼業界の労働団体の代表者も構成員として参加していた通商産業省の諮問機関が固定費削減や余剰設備削減、さらには、出向の必要性を含む人員合理化の必要性等を示唆する報告を出し、これを受けるような形で、被告だけではなく、他の高炉大手各社が、対応策として要員削減を中心にした合理化を目指す中期的な経営計画を相次いで発表する状況であった。

さらに、八幡製鉄所における構内輸送部門の労働生産性は、被告の他の製鉄所や他の大手製鉄会社の製鉄所に比べて低く、これを改善する必要に迫られていたこと、他の製鉄所においては、輸送を専門とする協力会社に全面的に構内輸送部門を業務委託される傾向にあったのに対し、八幡製鉄所においては、構内輸送部門のうちの原告らが属していた鉄道輸送業務については、ほとんど従来からの被告の直営体制が維持されていたことが認められ、このような状況の下で、被告が、当時、八幡製鉄所における構内輸送体制を抜本的に改める必要性を感じていたことには十分な理由があると認められる。

したがって、このような状況下において、被告が、中期総合計画及び本件計画を発表し、その一環として八幡製鉄所の鉄道輸送業務を日鐵運輸に業務委託し、それに伴う本件出向措置を実施しようとしたことは、経営判断として合理的なものと認めることができ、労働組合としても、十分検討し評価した上で、最も重視する組合員の雇用確保の要請と合致するものとして一連の施策それぞれについて、いずれもその必要性及び施策の内容の合理性を了解する態度を表明したとみるべきであって、原告らが主張するような、被告のその後の決算内容の改善の経過の事実を以て本件計画及びそれに伴う一連の施策全体が、恣意的な経営判断に基づく先制的な人員削減策であるとすることは適当ではないというべきである。

また、原告らは、無軌道輸送化に限界があり、原告らは本来余剰人員ではなく、現在も業務委託された作業に従事するのはほとんどが被告からの出向者であって、要員の弾力的運用などなされておらず、本件計画や本件業務委託には必要性も合理性もないと断定するが、輸送計画作業や設備管理作業を除く構内輸送体制全体を一元的、合理的に構築する必要や被告における余剰人員の状況、本件計画や本件業務委託が雇用確保の一手段でもあるという点、さらには日鐵運輸の従業員も出向者とともに作業に従事している事実を無視する主張であり、相当ではないことが明らかである。

2  なお、原告らは、本件出向は雇用調整型の出向であって、整理解雇の法理に類似した限定的な解釈が必要となるから、業務上の必要性を厳格に考えるべきであると主張するが、そもそも業務委託に伴う出向が雇用調整のための整理解雇回避の措置であるとすること自体が疑問である上、本件出向が実質的には整理解雇回避の措置であると認めるに足りる事情は認められない。

四  本件出向命令の合理性について

1  本件出向は復帰の可能性のない永久出向であるとの点について

本件出向は付帯的事業である構内輸送部門の業務委託に伴うものであるため、出向期間の長期化が避けられず、原告らについても、三年の出向期間が既に二度延長されている。

しかし、本件出向がいわゆる転籍出向ではなく、後記のとおり、本件出向が長期化することによって原告らに相当の不利益が生じたと認めることはできないから、出向期間の延長自体を特に強調することは適当ではないし、また、原告らに復帰の可能性が全くないと断定できる事情は認められず、これを認めるに足りる証拠はない。

2  出向による原告らの不利益等

(一) 原告らは、<1>社内勤務者と比較し、所定内労働時間が長時間に及び、その格差が年々拡大し、著しい不利益を受け、<2>被告はこの差を「出向手当B」によって補填しているというが、過勤務手当から出向手当Bへの不利益変更自体が不当である上、これによる不利益が年々拡大している、<3>原告らの本件出向後の残業時間がかなり増加し、本件出向により労働強化が進んでいるなどと主張する。

(二) しかし、そもそも、出向において、出向元と出向先とで労働条件が全く同一であることは通常考えられず、出向によって労働条件の一部に不利益が生じることは避けられないが、出向命令の合理性を判断する際は、労働条件の変化を形式的に比較するだけでなく、当該出向措置の必要性の検討と合わせて労働者の生活環境や労働環境にどのような影響が生じたかを総合的に考察すべきである。

そうすると、出向者の労働条件については、社外勤務協定(<証拠略>)に、「出向者の就業時間、休日、休暇等就業に関しては出向先の規定による。」(六条一項)と規定されているから、原告らは日鐵運輸の就業規則に従うことになるから、原告らが主張するとおり、現在は、日鐵運輸の方が所定休日日数が少ない事実が認められる。しかし、これは、本件出向後に、被告がいわゆる時短を実施したことによるもので、原告らの労働条件を切り下げたとみることはできない。また、休日日数については、被告における就業規則(<証拠略>)によれば、社内勤務者の間においても、労働者全員に画一的に定められているわけではなく、勤務形態に対応して定められており、勤務形態によって生じた格差は諸手当の支給によって補填される仕組みであるから(<証拠略>)、この点をことさら強調することは相当ではない。

そして、休日日数の格差については、昭和六三年四月一日から施行された新たな社外勤務協定において、従来、過勤務手当により所定内労働時間差を填補してきた扱いから、年間支給額(出向先と被告との所定内労働時間差につき、区分に応じて二五時間ごとに年間三万円単位で支給するが、施行から一八か月間は、移行措置として四万円を単位とする。)を月割で支給し、これを過勤務及び深夜手当の単価算定の基礎給に含めるという扱いに変更されており、この点だけをみれば、一定の不利益が生じているといえるが、金額的にみて、原告の計算によっても年間数万円の差が生じるにすぎず(<証拠略>)、この程度の変更で労働条件に相当の不利益を与えたものと認めることはできないし、この社外勤務協定の改定は、組合員の意見を代表する連合会が被告との間で数回にわたり厳しい交渉を行った末、連合会の要求を一部いれた形で修正がなされ、改定された事実が認められ、その経緯からみても相当な内容であったというべきである。

なお、原告らは、被告勤務が続いていればそれだけの過勤務手当を貰えるはずだとして休日日数差を問題としているが、これは仮定の主張にすぎず、被告においては、本件出向前には雇用調整のために休業措置等も行われていた(<証拠略>)のであるから、原告らの右主張は相当ではない。

また、出向後の残業時間の増加の点については、確かに、本件計画が八幡製鉄所の鉄道輸送部門におけるDL運転者等の余力人員の一掃を目指すものであったから、余力人員がなくなったことによって、原告らの残業時間が増えた事実が認められるが、本件出向前の被告においては、雇用調整のための休業措置等が行われていたのであるから、出向前後を単純に比較することが適当であるか疑問であるし、原告らの主張を前提にしても、出向後の残業労働が不当な労働強化であるということは困難である。

したがって、これらの点については、いずれも、ことさら出向によって不当な不利益を受けたと強調すべきものではない上、原告らには、本件出向前後で、勤務場所、職場環境及び職務内容に変化はなく、本件出向措置についての労使の折衝の中で問題とされた勤務形態についても、日鐵運輸の就業規則とは異なる例外的な特例措置がとられ、出向前の勤務形態がほぼ維持されているので、原告らには、新しい勤務につくことによる苦痛は生じず、通勤場所が変わることによる家庭生活等に対する影響もない。

原告らの労働条件等について、右の点以外に出向前後で特に不利益が生じた点は見当たらないので、原告らに相当な不利益が生じたと認めることはできない。

(三) なお、原告らは、日鐵運輸の原告らに対する配転命令ないし他の会社への再出向命令の可能性を強調するが、現実に原告らに対する配転ないし出向が実施された場合に当該措置の有効性が問題になることは当然であり、本件においては、確かに、平成六年三月、被告が八幡労組に対し、出向者に対する出向先での要員の弾力的運用としての配転等を認めることを提案し、連合会がこれを了解した事実が認められる(<証拠略>)が、これを以て、原告らに対する右可能性が現実化しているということはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、右可能性を否定できないからといって、本件出向命令の合理性を否定するのは相当ではない。

3  要員設定、人選基準及び方法について

本件においては、出向者の人選の基準、具体的人選、原告らに対する説得の過程等本件命令に至る一連の経緯において、本件出向命令を不相当とすべき事情を認めることはできない。

五  まとめ

したがって、本件出向は、業務委託に伴うものであり、期間が長期化することが予想される出向であるが、その必要があり、原告に労働条件や生活環境の上で問題とすべき事情がなく、相当な要員設定と人選の下で行われるなど合理的な方法で行われたものであり、原告らの個別具体的な同意がなくても、被告は出向を命じることができたと認められ、原告らは、労働契約上の義務として本件出向命令に従う義務があり、出向法律関係が有効に成立しているものと認められる。

六  本件と出向命令が権利濫用であるとの原告らの主張について

原告らは、本件出向措置は、背景となる本件計画及び日鐵運輸に対する業務委託の必要性及び合理性がなく、したがって、本件出向命令には必要性がなく、本件出向により、原告らに重大な不利益を与え、出向回避措置を検討せずに強行されたものであるなど、権利濫用にあたり無効であると主張する。

しかし、出向回避措置の必要性については、出向一般にそれを要求すべきであると解することは困難である上、前記のとおり、当時の経済情勢からすれば、本件出向命令に至る一連の措置の必要性、合理性が認められ、連合会ないし八幡労組も、当該職場の個々の労働者の事情を十分考慮し、それぞれの必要性及び合理性についてその都度検討した上で、被告に対し了解の態度を表明しているのであるから、特に出向回避の措置が必要であったということはできず、本件出向命令を権利の濫用であると認めることはできない。

七  労働者派遣法の脱法行為との主張について

原告らは、本件出向命令は、労働者派遣法が、一般労働者として雇い入れた者を労働者派遣の対象とする場合に当該派遣対象労働者の同意を要件としている(三二条二項)ことを脱法するもので無効であると主張する。

しかし、本件出向が、前記のとおり在籍出向であり、原告らが、被告との労働契約関係において出向の義務を負い、日鐵運輸の定める労働条件に従い、その利益のため、その指揮命令下において労務に服するものであり、契約関係の一部が日鐵運輸に移転し、原告らと日鐵運輸との間に契約関係が存在するのに対し、「派遣」労働者においては、派遣先の従業員としての地位を一切有することなく、派遣先の使用者と契約関係にないのであり(労働者派遣法二条一号)、この点からすれば、本件出向が労働者派遣法にいう「派遣労働」に該当しないことは明らかというべきである。もっとも、原告らが指摘するように、本件出向が「派遣」に類似する点が認められるが、それは外形的な形態だけを取り上げて指摘したにすぎず、被告が原告らを労働部労働人事室労働人事掛に配転した措置についても、出向者に関する人事管理、勤務管理、給与管理等の事務処理上の便宜のため、出向措置一般の取扱いとして行っているものであって、出向に伴い必要な措置というべきであり、前記のとおり、本件出向は、必要性、合理性に欠ける点はなく、適正に行われたものであり、実質的にみても「労働者派遣」に該当しないことは明らかであり、労働者派遣法の脱法を目的としたものでないことも明らかである。

したがって、原告らのこの点に関する主張は失当である。

第四結論

以上の次第で、原告らの請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山浦征雄 裁判官 犬飼眞二 裁判官 平島正道)

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